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退職届を出した翌週、引き止められて気持ちが揺れた。あるいは、異動の話が出て「それなら残ってもいいかもしれない」と思い直した。そんなとき、撤回できるかどうかは出した書面が「辞職の通知」なのか「合意解約の申込み」なのか、そして会社がすでに承諾したかで変わります。結論から言うと、「出してしまったから終わり」とも「口で言えば取り消せる」とも言い切れません。
この記事では、撤回を考えたときにやりがちな失敗を3つ挙げ、それぞれの回避策と、上司に伝えるときの文例を示します。法的に判断が分かれる部分は、公的機関の資料で確認できた範囲だけを書き、確認できなかった部分は「労働局などで確認」と明記します。
先に押さえる:辞職と合意解約で、撤回の考え方が分かれる
退職の意思表示には、大きく2種類あります。厚生労働省が公表している個別労働紛争のあっせん事例の解説では、労働契約の終わり方を次のように整理しています。
- 合意解約:労働者と使用者が合意によって、労働契約を将来に向けて解約すること。会社側の退職勧奨を労働者が任意に受け入れる場合も、合意解約と考えられるとされています
- 辞職:労働者の一方的な意思表示による労働契約の解約。期間の定めのない雇用契約では、原則として2週間の予告期間を置けば、理由を問わずいつでも解約できます(民法627条1項)
宮崎県が公開している労働相談の事例では、法律上明確な区分があるわけではないとしたうえで、一般的に「退職願」は合意解約の申入れ、「退職届」は一方的な解約の意思表示と解されると説明されています。名前だけで決まるわけではなく、文面や出し方、会社の受け止め方も見られます。
このため、撤回を考えるときは「自分が出したのは何か」「会社はもう受け入れたのか」の2点を、最初に整理します。ここを曖昧にしたまま動くと、次の3つの失敗につながりやすくなります。
※撤回できる時点・条件そのものについては、今回開いた公的ページに直接の記載を確認できませんでした。実際の判断は事情で変わるため、迷うときは都道府県労働局の総合労働相談コーナーなど、公的な窓口で確認してください。
失敗1:口頭で「やっぱり辞めません」と言っただけで、書面の扱いを確認しない
よくあるのは、廊下や休憩室で上司に「あの話、なかったことにしてもらえませんか」と声をかけ、「ああ、わかった」という返事をもらって安心するパターンです。ところが、人事の手元では退職届がそのまま処理され、翌月の退職日に向けて後任の募集が走り続けていた、という行き違いが起こりえます。
上司個人が理解していても、退職の受付は人事や総務が持っていることが多く、上司が「わかった」と言ったことと、会社として手続きが止まったことは別です。
回避策:書面や社内の手続きまで含めて、止まったかを確認する
- 退職届や退職願を、誰に・いつ・どの方法で出したかを書き出す(手渡し、メール、社内システムなど)
- 受理の連絡や、退職日を記した通知がすでに来ていないか確認する
- 口頭で伝えたら、その日のうちに短いメールで内容を残す
- 人事や総務に、手続きが止まっているかを自分から聞く
文例:上司に口頭で伝えたあとに送る確認メール
件名:退職の件について(ご確認のお願い)
〇〇部長
お疲れさまです。〇〇です。
本日、お時間をいただきありがとうございました。先日提出した退職届について、私の事情が変わったため、退職の意向を取り下げたいとお伝えしました。
つきましては、人事部での手続きや退職日の設定など、すでに進んでいる分があれば止めていただくようお願いできますでしょうか。ご不明な点があれば、私から人事部にも説明いたします。
どうぞよろしくお願いいたします。
メールは相手に読まれたかどうかが分かるので、あとから「聞いていない」となるのを防げます。送信日時が残ることも利点です。
失敗2:迷っているうちに返事を先延ばしにして、退職日が近づく
「少し考えさせてください」と言ったまま、1週間、2週間と過ぎる。引き止めの面談で「条件を考える」と言われ、結論を出さずにいるうちに、有給の消化や引き継ぎのスケジュールが組まれていく。そんな流れも起きがちです。
民法627条1項では、期間の定めのない雇用契約の解約は、申入れの日から2週間を経過すると終了するとされています。茨城労働局のQ&Aでも、労働者からの退職の申し入れは申し入れ後2週間を経過した時点で有効になると説明されています。会社が退職日を就業規則に沿って先に設定している場合は、さらに別の期限が動いているかもしれません。
つまり、迷いが長引くほど、撤回を申し出る時点で「もう退職日が目前」「すでに後任が決まった」という状況になりやすいのです。
回避策:自分の中で、返事の期限を決める
- 退職日(または申入れから2週間後の日)をカレンダーに書く
- 残る場合に必要な条件を、紙に3つまで書き出す(例:担当の変更、残業時間、異動の時期)
- 会社に伝える期限を、その日の1週間以上前に置く
- 期限までに、会社への返事の日と相手を決める
迷うこと自体は自然です。ただし、会社に「検討中」と伝えるなら、いつまでに返事をするかも一緒に伝えると、相手も動きを止めやすくなります。
文例:返事に時間がほしいときの伝え方
「退職の件ですが、いただいた条件を踏まえて考え直しています。〇月〇日までに、残るか辞めるかをご連絡します。それまでは、引き継ぎ資料の作成は予定どおり進めます。」
引き継ぎを進める姿勢を見せておけば、結果がどちらでも会社への迷惑が小さくなり、話がこじれにくくなります。
失敗3:引き止めの条件を、口約束のまま受け入れて撤回する
「残ってくれるなら、来月から別の部署に異動させる」「残業を減らすよう調整する」。引き止めの場でそう言われ、撤回を決めたものの、数か月後に何も変わっていない。退職を撤回したあとで、条件が守られないことに気づいても、会社に対して強く言いにくい立場になっています。
ハラスメントや過重な業務が退職の理由だった場合は特に、撤回後にまた同じ状況へ戻ると、1度目より精神的な消耗が大きくなることがあります。
回避策:条件は、メールか面談記録で残す
- 誰が、いつから、何を変えるのか(担当、異動、時間外労働の上限など)を具体的に確認する
- 面談の日付と内容を、自分のメモに残す
- 面談後に、確認メールを送る(相手の返信があれば、それも保存する)
- 期限が来ても条件が守られていなければ、その時点で人事や社外の相談窓口に連絡する
文例:引き止めの条件を確認するメール
件名:本日の面談内容の確認
〇〇部長
お疲れさまです。〇〇です。
本日は、退職の件でお時間をいただきありがとうございました。
お話しした内容を、認識違いがないよう確認させてください。
・〇月〇日付で、〇〇部へ異動する
・異動後の時間外労働は、月〇時間以内を目安に調整する
私の理解と異なる点があれば、ご指摘ください。
この内容を前提に、退職の意向を取り下げたいと考えております。
「前提に」という言い方にしておくと、条件が守られなかったとき、あらためて退職を考える理由が説明しやすくなります。
撤回が難しくなりやすい場面
撤回が通りにくくなる要素は、次のようなものです。
- 会社がすでに退職を承諾した、または退職日を確定させた
- 後任の採用や配置が決まり、会社に具体的な準備の負担が出ている
- 書面の内容が「○月○日をもって退職します」と、一方的な通知の形になっている
- 申入れから2週間が過ぎている
どこまでが撤回できる範囲かは個別の事情で結論が変わるため、ここでは一般論にとどめます。
撤回が認められなかったとき・会社が応じないときの動き方
「撤回したい」と伝えたのに、会社が「もう受理した」「辞めてもらう」と対応してくることもあります。その場合は、次の順で動きます。
- 退職届の控え、メールやメッセージ、面談メモなど、これまでのやり取りを日付順にまとめる
- 会社の言い分を、書面かメールで出してもらうよう頼む(「退職日はいつ付けで、根拠は何か」を聞く)
- 都道府県労働局の総合労働相談コーナーに、事実関係を持ち込んで相談する
- それでも話がまとまらない、会社から損害賠償などの話が出る場合は、弁護士に相談する
相手が強硬で、一人で会社とやり取りするのが負担なときは、弁護士への無料相談も選択肢です。LINEで状況を送って、次に何をするかだけでも整理しておくと、会社との話し合いに臨みやすくなります。
退職までの全体の流れは、退職するときにやること一覧にまとめています。退職願と退職届の違いは、退職願と退職届はどう違う?で書き方と合わせて整理しています。
撤回せずに辞める場合に、いま整えておくこと
考えた末に、やはり辞めるほうがいいと決めることもあります。そのときに慌てないよう、次の点を並べておきます。
- 退職日の決め方:就業規則の予告期間と、民法の2週間がぶつかるときの考え方は、退職は何日前に伝えればいい?で書いています
- 有給休暇の残日数を、給与明細や社内システムで確認する
- 会社の貸与物(パソコン、社員証、鍵など)の一覧をつくる
- 離職票や源泉徴収票の受け取り方法(郵送先)を、人事に伝える
撤回するか辞めるかを決める前でも、後でも、この準備はムダになりません。
契約の種類や就業規則で、確認する点が変わる
同じ「撤回したい」でも、働き方によって見るべき箇所が違います。
正社員など、期間の定めのない契約の場合
民法627条1項の2週間の考え方が基本になります。月給制などで賃金計算期間ごとに支払われている場合は、同条2項により、申入れは次の期以降についてすることができ、その申入れは当期の前半にしなければならないとされています。ただし、実際にどちらが当てはまるかは給与の仕組みで変わります。自分の給与がどの形かわからないときは、給与明細や雇用契約書を確認し、不明なら人事に聞いてください。
契約社員・パートなど、期間の定めのある契約の場合
宮崎県の労働相談事例では、期間の定めのある労働者は、原則として契約期間の途中での退職や解雇はできず、病気・介護・家庭の事情で働けないなどのやむを得ない事由、または労使間の合意が必要と説明されています。この場合、退職を会社と合意して決めた経緯があるほど、あとから撤回する話し合いも、会社との合意が前提になりやすくなります。
就業規則に退職の手続きが書かれている場合
就業規則に「退職は〇か月前までに届け出る」「退職届は所属長を通じて提出する」といった定めがあるときは、その規定がどこまで効力を持つのかが争点になることがあります。茨城労働局のQ&Aには、就業規則に退職日の1か月前までと定めがあるとき、民法の規定を任意規定と見る立場では就業規則が優先する一方、裁判例には民法を強行規定と解するものもあると書かれています。撤回の場面でも、会社が就業規則を根拠にどう扱うかが話の中心になることがあるため、条文は先に読んでおきます。
撤回したあと、職場でどう過ごすか
撤回が認められて残ることになっても、周囲には「一度辞めると言った人」という目で見られる気まずさが残ることがあります。そこで、次の3点を意識しておくと、後の面倒を減らせます。
- 撤回の理由を、上司と人事で同じ言葉にそろえておく(例:「配属の見直しの話を受けて、考え直した」)
- 引き継ぎを始めていた場合、資料はそのまま残し、チームの業務として使えるように整える
- 1〜3か月後に、約束された条件が実際に動いているかを自分で点検する日をカレンダーに入れる
たとえば「3か月後の〇月〇日に、異動の進み具合と残業時間を見直す」と決めておけば、うやむやのまま時間が過ぎるのを防げます。その時点で状況が変わっていなければ、あらためて退職を考えてもかまいません。
相談先に持っていく情報の整理
労働局や弁護士に相談するとき、最初に聞かれるのは「何を、いつ、誰に出したか」と「会社は何と言っているか」です。次の内容を1枚のメモにまとめておくと、短い時間で状況が伝わります。
- 入社日、雇用形態(正社員・契約社員など)、給与の締め日と支払日
- 退職届または退職願を出した日、相手、方法、控えの有無
- 会社から受け取った連絡(受理のメール、退職日の通知、引き止めの言葉)とその日付
- 撤回を伝えた日、相手、方法と、会社の返事
- 残るために出された条件と、実際に動いた内容
面談の内容は、その日のうちに書き残しておくと、後から思い出すより正確です。「いつ」「誰が」「何と言ったか」を、評価や感想を混ぜずに書くのがコツです。
人事や総務に直接伝えるときの言い方
上司を通すと話が止まりそうなときや、上司が不在のときは、人事や総務に直接伝える場面もあります。その場合は、感情の説明よりも、事実と希望を短く並べたほうが伝わります。
「〇月〇日に退職届を〇〇部長に提出しました。その後の事情の変化で、退職の意向を取り下げたいと考えています。手続きが現在どこまで進んでいるか、教えていただけますか。」
ここで大事なのは、「取り下げたい」という希望と、「いまの進み具合を知りたい」という確認の2つを、同じ連絡の中で伝えることです。返事が口頭だったときは、「先ほどのお話を、念のためメールで確認させてください」と一言添えて、内容をメールで送り直します。
相手が「検討します」と答えたら、「いつごろ、どなたからご連絡をいただけますか」と聞いておきます。連絡の目安の日が決まれば、その日を過ぎても返事がないときに、こちらから再度問い合わせる理由ができます。
撤回を考えているあいだに、避けたほうがいいこと
- 撤回の可否がわからないまま、会社の備品や私物の整理を先に進めてしまう
- 同僚に「辞めるのをやめるかも」と話し、会社に伝わる前に噂として広がる
- 引き止めの場で、その場の勢いで「残ります」と答えてしまう(持ち帰って、一晩おいてから返事をする)
- メッセージアプリだけで済ませ、あとから探せない形にしてしまう
とくに引き止めの面談では、その場で結論を求められても「今日は持ち帰って、〇日までにお返事します」と言って構いません。返事の日を自分で決めて伝えれば、急かされて決めたという後悔を減らせます。
やることチェックリスト
- 自分が出したのが、退職届か退職願か、書面の文言を読み返した
- 提出の日時・相手・方法を、メモにまとめた
- 会社から受理や退職日の通知が来ていないか、メールと書類を確認した
- 撤回する場合、口頭だけでなくメールで意向を伝えた
- 残る条件を紙に書き出し、会社にも確認メールで残した
- 返事の期限を自分で決め、会社に伝えた
- 会社が応じないときの相談先(労働局、弁護士)を調べた
まとめ
退職届を出したあとの撤回は、「できる」「できない」と一言で決まる話ではなく、書面の性質、会社が承諾したか、どれだけ時間が経ったかで状況が変わります。確実に言えるのは、口頭だけで済ませない、返事を先延ばしにしない、条件を書面で残す、という3つの動き方が、どの場合でも損を小さくするということです。
迷っているなら、まず今日のうちに、提出した書面の内容と日付をメモにまとめてください。そのうえで、会社への連絡はメールで残し、判断に迷う部分は労働局などの公的窓口で確認します。会社との話し合いが重いときは、弁護士への無料相談で状況を整理するのも一つの方法です。






