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退職したあと、転職先から「前職の退職証明書を出してください」と言われて、前の会社に連絡したら「そういうものは出していない」「離職票があるでしょう」と返された。ハラスメントで辞めた人ほど、この場面で再び会社と向き合うのがつらくなります。
先に結論を書きます。退職証明書は、退職した人が請求すれば、会社が「遅滞なく」交付しなければならない書類です。厚生労働省の「確かめよう労働条件」には、請求できる項目や、出してもらえないときは労働基準監督署に相談できることが書かれています。ただし、請求のしかたを間違えると、話が長引いたり、思っていない内容が書かれたりします。この記事では、よくある3つの失敗を順に取り上げ、それぞれの回避策と、そのまま使える文例を載せます。
一人で会社とやり取りするのが負担なときは、退職まわりの手続きを弁護士に無料で相談するという選択肢もあります。まずは、自分で動ける範囲を知っておいてください。
退職証明書とは何か、離職票とどう違うのか
退職証明書は、労働基準法第22条に基づいて、退職した人が請求したときに会社が出す証明書です。厚生労働省の解説によると、請求できる項目は次の5つです。
- 使用期間(いつからいつまで働いたか)
- 業務の種類
- その事業での地位(役職など)
- 賃金
- 退職の事由(解雇の場合は、その理由を含む)
この5項目のうち、希望する項目だけを書いた証明書をもらうこともできます。そして、請求していない項目を会社が書き込むことは、労働基準法第22条で禁じられています。たとえば「在籍期間と職種だけ」を請求すれば、退職の事由は書かれません。
一方、離職票は、ハローワークで失業給付の手続きをするための書類で、会社がハローワークに出した資料をもとに発行されます。厚生労働省のページでも、離職票は退職証明書の代わりにならないこと、離職票を受け取っていても退職証明書を別に請求できることが示されています。離職票が届かないときの動き方は、離職票が届かないときの動き方|退職後に会社から何も来ない場合、今日から1か月の手順と文例に書いたので、そちらも見てください。
退職証明書が必要になる場面は、たとえば次のようなものです。
- 転職先から、前職の在籍期間や職種の証明を求められた
- 国民健康保険や国民年金の手続きで、退職日を示す書類を求められた
- 賃貸の入居審査や、子どもの保育園の手続きで、就労状況を示す書類を求められた
手続きによっては、離職票や源泉徴収票など別の書類で足りることもあります。提出先に「どの書類なら受け付けてもらえるか」を先に聞くと、無駄な請求が減ります。
失敗1:電話や対面で頼んで、「頼んだ」記録が残らない
最も多いのがこれです。退職の最終日、荷物をまとめながら総務の担当者に「退職証明書もお願いします」と口頭で伝え、「あとで送ります」と言われる。ところが2週間待っても届かない。もう一度電話をすると「そんな依頼は聞いていない」と返される。
厚生労働省のページでは、請求は退職と同時でなくてもよく、請求できる期間は退職時から2年とされています。時間には余裕がありますが、「いつ、誰に、何を請求したか」が残っていないと、会社が動かない理由を後から確かめられません。
回避策:請求はメールか書面で、項目を指定して出す
請求は、メールや書面など、あとで見返せる形にします。送る相手は、人事・総務の担当部署か、退職の手続きをしてくれた担当者です。上司に直接連絡すると、ハラスメントの加害者と再びやり取りすることになり、消耗します。メールの宛先は、離職票や源泉徴収票の連絡で使った人事のアドレスがあれば、そこにそろえるのが無難です。
文例です。
件名:退職証明書の発行のお願い(○○ ○○)
○○株式会社 人事部(総務部)ご担当者様
○月○日に退職いたしました○○ ○○です。お世話になっております。
労働基準法第22条に基づき、退職証明書の交付を請求いたします。記載をお願いする項目は、次の2点です。
・使用期間
・業務の種類
お手数ですが、○月○日までに、下記の住所への郵送(またはこのメールへのPDF添付)でお送りください。ご不明な点があれば、このメールにご返信ください。
〒○○○-○○○○ ○○県○○市……
○○ ○○
ポイントは3つあります。
- 法律名を書く。担当者が「そもそも出す義務があるのか」と迷う場面を減らせる
- 項目を指定する。次の失敗3で触れるように、書かれたくない項目は請求しないという使い方ができる
- 期限と受け取り方法を書く。「遅滞なく」の目安として、1週間から10日ほど先の日付を置くと、催促もしやすくなる
送信したメールは、スクリーンショットか転送で別の場所に保存しておきます。のちに労働基準監督署へ相談する場合も、この請求の記録が最初の資料になります。
失敗2:離職票や源泉徴収票で足りると思い込む、または会社の「出していない」を受け入れる
会社に連絡したとき、「退職証明書は発行していません」「うちは離職票だけです」と言われることがあります。担当者が制度を知らないだけで、悪意がないことも多いのですが、そのまま引き下がってしまうと、転職先への提出期限に間に合わなくなります。
「うちは出していない」は、断る理由になりません。厚生労働省のページでは、請求があった場合、会社は遅滞なく証明書を交付する義務があるとされています。会社の社内ルールで書式が決まっていないだけなら、会社が自由な書式で作れば足ります。厚生労働省は退職事由についてのモデル様式も示していて、書式に迷う会社にはそれを案内することもできます。
回避策:義務の根拠を一文で伝え、動かなければ次の順で進める
会社から断られたり、返事がなかったりしたときの進め方です。
- 最初の請求メールから1週間たっても返事がなければ、同じ宛先に再送する。「○月○日付のメールの件で、交付の予定をご教示ください」と短く書く
- それでも動かなければ、書面(内容証明郵便でなくてもよい。普通郵便に写しを手元に残す形でも、日付が残る)で請求する
- それでも出てこなければ、労働基準監督署に相談する。厚生労働省のページにも、交付されない場合は労働基準監督署に相談するよう書かれている
催促のメールの文例です。
件名:【再送】退職証明書の交付について(○○ ○○)
○○株式会社 人事部ご担当者様
○月○日にお送りした退職証明書の請求の件で、ご連絡しました。労働基準法第22条では、請求があった場合に遅滞なく交付することが定められていると承知しております。
交付の時期について、○月○日までにご返信をお願いします。転職先への提出期限が迫っているため、早めの対応をお願いできると助かります。
感情的な言葉は入れず、日付と期限だけを書きます。あとで第三者が読んでも、請求した側が丁寧に対応していたことが伝わる文面にしておくと、相談の場面で役に立ちます。
なお、会社が「提出先の用途が分からないと出せない」と言ってくることもありますが、請求の理由を説明する義務は、厚生労働省のページに書かれていません。説明したほうがスムーズに進みそうなら、「転職先への提出用です」の一言で足ります。
失敗3:退職の事由まで請求して、書かれた内容に食い違いが出る
ハラスメントで辞めた人が、特に気をつけたい失敗です。転職先に出す目的なら、在籍期間と職種があれば足りることが多いのに、5項目すべてを請求してしまい、「退職の事由」の欄に思いがけない内容が書かれて届く。
たとえば、本人は「上司のパワハラが原因で辞めた」と考えているのに、証明書には「一身上の都合により退職」と書かれている。あるいは、ハラスメントについて会社と見解が分かれているのに、会社に都合のよい言葉が並んでいる。
厚生労働省のページによると、会社と労働者の間で退職事由の見解が異なる場合、会社が自らの見解を記載して交付すれば違法にはならない、とされています。ただし、その記載が虚偽であれば、義務を果たしたことにはなりません。つまり、「自分の言い分と違う」というだけでは、会社に書き直しを強制できない場面があります。逆に、事実と明らかに違う内容が書かれていれば、問題として相談できる余地があります。
回避策:必要な項目だけを請求し、退職事由は目的があるときだけ請求する
転職先に出す、住所確認用に出すといった用途なら、請求は「使用期間」「業務の種類」などに絞ります。請求していない項目を会社が書くことは法律で禁じられているので、「退職の事由」は書かれません。
一方で、退職の事由を請求したほうがよい場面もあります。たとえば、会社都合か自己都合かで、失業給付の受け方が変わることがあります。この点はハラスメントで辞めたら会社都合になる?離職票の「自己都合」で失敗しない3つの注意点で整理しています。退職の事由を請求する場合は、請求の時点で、事由の欄に書いてほしい内容を自分から添えておくと、食い違いを減らしやすくなります。
文例です。
件名:退職証明書(退職の事由を含む)の発行のお願い(○○ ○○)
……(宛名と挨拶は失敗1の文例と同じ)
労働基準法第22条に基づき、退職証明書の交付を請求いたします。記載をお願いする項目は、使用期間、業務の種類、退職の事由です。
退職の事由については、事実に沿った内容でご記載ください。当方の認識は、○月に上司から繰り返しの叱責を受け、体調を崩したため退職した、というものです。記載内容に当方の認識と異なる点がある場合は、交付前にご連絡をお願いします。
「事実に沿って」「交付前に連絡を」と書いておくと、会社の見解だけが一方的に書かれて届く、という流れを避けやすくなります。会社の記載が事実と違うと感じたら、その書面は捨てずに保管してください。食い違いを示す記録になります。
もうひとつ、労働基準法第22条では、第三者と謀って労働者の就業を妨げる目的で、秘密の信号を書き込むことも禁じられています。転職先への妨害を心配する人もいますが、法律上は禁止されている行為です。もし不安なら、受け取った証明書の記載内容を読み、不自然な記号や余計な記載がないかを確認してください。
3つの失敗を避けたあとの流れ:今日からの動き方
ここまでの内容を、実際の動きに置き換えます。
- 今日:提出先に、必要な書類名と記載してほしい項目、提出期限を確認する
- 今日〜明日:人事・総務宛てに、項目を指定した請求メールを送る。送信画面や送信済みメールを保存する
- 1週間後:返事がなければ再送する。それでも動きがなければ、書面でも請求する
- 2週間〜1か月後:それでも交付されなければ、請求の記録をそろえて、労働基準監督署に相談する
会社が正式に断ってきた、または退職を切り出したときのような嫌がらせが再び始まった、という場合は、退職を切り出したら態度が豹変した|無視・嫌がらせ・脅しへの対応で、やりがちな3つの失敗と文例の対処も参考になります。退職後も嫌がらせのような態度が続くなら、その事実もメモに残しておきます。
注意点:請求するときに押さえておきたいこと
- 請求できる期間には限りがある。厚生労働省のページでは、請求権の時効は退職時から2年とされています。2年を過ぎると交付されないこともあるため、必要になりそうなら早めに動く
- 請求の回数に制限はない。転職先が複数あっても、用途ごとに項目を変えて請求できる
- 会社の見解が書かれても、直ちに違法とは限らない。虚偽の記載は義務を果たしたことにならないが、見解が分かれているだけの場合は、会社の言い分がそのまま書かれることがある。判断に迷う場合は、労働基準監督署や弁護士に確認する
- 解雇された場合は別の証明書もある。解雇の理由についての証明書は別に請求できる。厚生労働省の「確かめよう労働条件」の解雇に関するページで案内されているので、解雇された場合はそちらも見る
退職証明書は、請求すれば出してもらえる書類です。それでも、ハラスメントで辞めた人にとっては、請求のメールを書くこと自体が重い作業です。会社の担当者の名前を見ただけで、胸が重くなる人もいます。
そんなときは、メールの文面を作る段階から弁護士に頼む方法があります。退職の連絡や書類の請求を、本人に代わって会社に伝えてもらえることがあります。一人で抱えきれないときは、LINEでできる弁護士への無料相談も、選択肢のひとつです。弁護士以外の業者は、会社との金銭や法的な交渉ができないとされているため、交渉が必要な場面かどうかで窓口を選ぶ必要があります。結果は契約内容や証拠の状況で変わります。
労働基準監督署に相談するときの持ち物
会社が証明書を出さないとき、相談の窓口は労働基準監督署です。持っていくと話が早い資料を挙げます。
- 退職日が分かる書類(退職届の控え、離職票、退職日を示すメールなど)
- 請求メールと、会社からの返信(なければ送信済みの画面)
- 再送や書面で請求した場合は、その控えと郵送の記録
- 会社の名前、住所、担当部署、担当者名
- 相談したい内容を3行ほどにまとめたメモ
メモの例です。
「○月○日退職。○月○日にメールで退職証明書(使用期間・業務の種類)を請求したが、○月○日現在、交付されていない。再送は○月○日に実施。転職先への提出期限は○月○日」
日付と事実だけを並べます。相談員は、そのメモを見て、会社への連絡が必要かどうかを判断しやすくなります。
パート・契約社員・短期で辞めた場合も請求できるのか
「正社員ではなかったから」「数か月しか働いていないから」と、請求をためらう人がいます。厚生労働省のページが示している対象は、退職した労働者です。雇用形態や勤務期間で区切る記述は、確認したページには見当たりませんでした。パートやアルバイト、契約社員の場合も、まずは同じ手順で請求してみてください。会社が「対象外」と答えたときは、その根拠を聞き、納得できなければ労働基準監督署に確認します。
短期で辞めた場合に多いのは、書類の発行に慣れていない小規模な会社で、担当者が手探りになっているケースです。その場合は、厚生労働省が示している退職事由のモデル様式があることを、メールの末尾に一言添えると、先方が書式に迷う時間を減らせます。「書式が決まっていなければ、厚生労働省のモデル様式を参考にしていただいて構いません」といった書き方です。
やることチェックリスト
- 提出先に、必要な書類名・記載する項目・提出期限を確認した
- 人事・総務宛てに、項目を指定した請求をメールか書面で送った
- メールに法律名(労働基準法第22条)、希望する項目、期限、受け取り方法を書いた
- 送信したメールを保存した
- 1週間たっても返事がなければ、再送すると決めた
- 退職の事由を請求する場合は、事実に沿った記載を求める一文を入れた
- 届いた証明書の記載内容を確認し、食い違いがあれば保管した
- 交付されないときの相談先として、労働基準監督署を確認した
- 請求できる期間が退職時から2年であることを覚えた
まとめ
退職証明書の請求でつまずく原因は、請求の中身よりも、請求のしかたにあることが多いです。
- 失敗1:口頭で頼んで記録が残らない。メールか書面で、項目と期限を指定して送る
- 失敗2:「出していない」という返事を受け入れてしまう。法律名と期限を示して再送し、動かなければ労働基準監督署に相談する
- 失敗3:退職の事由まで請求して食い違いが出る。用途に必要な項目だけに絞り、事由を請求するなら事実に沿った記載を求める
厚生労働省の「確かめよう労働条件」には、退職時の証明について、上に書いた内容が掲載されています。退職時の証明に関する厚生労働省のページで、最新の記載を確認してから請求してください。
今日できる最初の一歩は、提出先に「どの書類の、どの項目が必要か」を一通のメールで確認することです。それが分かれば、会社への請求は、2〜3行の短いメールで足ります。






