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退職日は、あなたが自分で案を出して、書面かメールで残す。これが一番つまずきにくい進め方です。「辞めたい気持ち」だけを伝えて日付を会社に預けると、話が延びたり、言った言わないになったりしやすくなります。
法律の面では、期間の定めのない雇用(いわゆる正社員など)なら、民法627条1項に「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と書かれています。e-Gov法令検索で確認した条文です。ただし、これは「最短でここまで縮められる」という下限の話で、実際の退職日は引き継ぎや有給休暇の残りとの兼ね合いで決める人がほとんどです。
この記事は、退職日の決め方でありがちな失敗を3つ取り上げ、それぞれの回避策と、そのまま使える文例を並べる構成にしています。まず結論だけ先に言うと、次の3点です。
- 退職日の希望は、「何月何日」と具体的な日付で、こちらから出す
- 伝えた内容は、メールや退職届など、あとから読み返せる形で残す
- 出社しない場合でも、会社への連絡と貸与物の返却の段取りは省かない
※本記事の事例は、実際の相談事例を基に、個人や会社が特定されないよう一部を脚色・再構成したものです。
先に押さえておく:退職日をめぐる法律の基本
失敗例に入る前に、土台になるルールを2つだけ確認します。どちらも条文で確認できる範囲に絞っています。
期間の定めのない雇用は、申入れから2週間で終了する
先ほど引用した民法627条1項のとおり、期間を決めていない雇用契約では、労働者はいつでも解約の申入れができ、申入れの日から2週間が経つと雇用が終わります。たとえば10月19日に退職の意思を会社に伝えた場合、条文の読み方としては、2週間が経過する11月2日ごろが最短のラインになります。数え方の細かい点(初日を入れるかなど)は、実際に日付を決める段階で、労働局の窓口か弁護士に確認すると安心です。
契約期間が決まっている場合は、話が変わる
契約社員や派遣社員のように期間の定めがある場合は、民法628条が関わります。条文には「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」とあります。「やむを得ない事由」に当たるかどうかは個別の事情で判断が分かれるため、有期契約の方は、自分で結論を出す前に相談窓口に確認してください。
就業規則の「1か月前までに申し出ること」はどう扱うか
多くの会社の就業規則には、退職を申し出る時期の決まりがあります。この規則と民法の2週間の関係については、事案によって見方が分かれるため、この記事では断定しません。実務では、就業規則の期限に合わせて話し合ったほうが円満に進むことが多いのは確かです。一方で、ハラスメントで心身がすでに限界に近い場合に、就業規則の期限を理由に何か月も働き続けなければならないかどうかは、個別の判断が必要です。迷うなら、後半で紹介する窓口に先に相談してください。
失敗例1:「辞めたいです」とだけ伝えて、日付を決めなかった
月曜の朝礼後、上司を会議室に呼んで「辞めたいと考えています」と切り出す。上司は「わかった、少し考えさせてくれ」と言い、その日の話は終わる。ここまでは普通の流れです。問題はその後で、1週間たっても、2週間たっても、上司から退職日の話が出てこないケースがあります。
日付がないまま意思だけを伝えると、会社側は「まだ正式な話ではない」と受け取る余地を持ちます。繁忙期が終わるまで、後任が決まるまで、と話が延び、気づけば申入れから1か月以上たっていた、という形が典型です。10月13日の記事で引き止めの断り方を扱っていますが、引き止めが長引く背景にも、日付が曖昧なままだったという事情がよくあります。
- 回避策:切り出す時点で「〇月〇日付で退職したい」と日付まで言う
- 回避策:日付は、引き継ぎに必要な期間と有給の残日数を自分で数えたうえで決める
- 回避策:口頭で伝えた当日中に、同じ内容をメールで送る
日付を決める手順は、難しくありません。まず、いつまでに何を引き継ぐかを書き出します。担当している取引先、締め日のある業務、共有フォルダの整理など、項目ごとに「何日かかるか」を見積もります。次に、残っている有給休暇の日数を人事か給与明細で確認します。有給の取得には会社との調整が絡むので、日数は「確認が必要」として、希望として伝えるのが安全です。この2つを合わせて、最終出社日と退職日を逆算します。
伝えるときの口頭の文例です。
「一身上の都合で、11月30日付で退職したいと考えています。引き継ぎは11月中旬までに資料にまとめて、後任の方に説明できるようにします。有給の残りは、最終週にまとめて使えれば助かります。」
この言い方なら、決意があること、日付の案があること、引き継ぎに協力する姿勢があることが一度に伝わります。会社が別の日付を出してきた場合も、「その日だと〇〇が難しいので、〇日ではどうでしょうか」と、交渉のテーブルに乗せやすくなります。
失敗例2:口頭だけで伝えて、記録を残さなかった
「先月、課長に辞めると伝えてあります」と人事に話したら、「課長からは何も聞いていません」と返された。こうした行き違いは、珍しくありません。上司が人事への報告を後回しにしている場合もあれば、まだ引き止められると考えて止めている場合もあります。
記録がないと、退職の申入れをした日そのものを証明できません。申入れの日は、民法627条1項の2週間の起点になる日です。起点があいまいになると、退職日の話し合いが長引いたときに、こちらが不利になります。
- 回避策:口頭で伝えた日のうちに、「本日お伝えした件の確認です」とメールを送る
- 回避策:退職届を出す場合は、提出日を残す(コピーを取る、受け取った人の名前をメモする)
- 回避策:会社のメールを使うのが不安なら、日付・場所・相手・言われたことを手書きのメモに残す
メールの文例です。件名は「退職のご相談(〇〇部 〇〇)」のように、用件と名前がわかるものにします。
「〇〇課長 本日はお時間をいただき、ありがとうございました。本日お伝えしたとおり、11月30日付での退職を希望しております。引き継ぎは11月15日までに完了できるよう進めます。退職の手続きについて、必要な書類や今後の流れを教えていただけますでしょうか。」
書き方のコツは、感情や不満を入れないことです。退職理由が職場のハラスメントであっても、このメールには書かず、「一身上の都合」にとどめるほうが話が進みやすい場面は多くあります。ハラスメントの記録は、別の場所に分けて保管します。証拠の残し方は、ハラスメントの証拠がないときに今から残せるもの一覧にまとめています。退職の連絡と証拠の保管は、別々の作業として並行して進めてください。
もう一つ、書面で残すときに気をつけたいのが、「退職願」と「退職届」の違いです。一般には、退職願は「辞めたいのでご検討ください」という依頼で、退職届は「この日付で辞めます」という通知として使われます。会社によって呼び方や扱いが違うことがあるので、提出する書類の種類は、日付を決めたあとで人事に確認するのが確実です。
失敗例3:限界で、連絡せずに出社をやめてしまった
これは、責められるべき失敗ではありません。朝、駅のホームで足が止まり、そのまま会社に連絡できなくなる人はいます。心身が限界のときに、冷静に退職日を設計しろと言うのは酷です。ただ、連絡も貸与物の返却もないまま出社をやめると、あとから別の問題が生まれやすいのも事実です。
よくあるのは次の3つです。
- 会社から電話やメッセージが何度も来て、さらに疲れる
- 社員証、鍵、貸与のパソコンやスマートフォンの返却をめぐって、話がこじれる
- 退職日が決まらないまま、欠勤扱いや無断欠勤扱いの記録だけが積み上がる
回避策は、「出社はしない。ただし連絡は1回、書面で入れる」という形にすることです。体調が理由なら、受診して診断書をもらえる状況かどうかも確認します。休む連絡の文例は、ハラスメントによる体調不良で休む連絡テンプレに載せています。休みを取りながら、退職日の相談を並行して進める方法も、その記事で触れています。
連絡文の例です。
「〇〇人事部長 体調不良のため、当面出社が難しい状況です。退職の意思があり、退職日の相談をしたく、メールでご連絡しております。貸与品(社員証、パソコン)は、郵送で返却いたします。送付先と、必要な手続き書類を教えてください。今後のご連絡は、メールでお願いできますと幸いです。」
「連絡は電話ではなくメールで」と明記するのは、直接話すと引き止めや問い詰めに遭いやすいからです。体調が悪いときは、書面のやりとりに限定する旨を伝えて問題ありません。
実際にあったケース:連絡なしで出社をやめ、貸与物が問題になった例
ここで、3つ目の失敗に近い実際の相談事例を紹介します。20代のエンジニアのAさんは、客先に常駐して働く形態で、労働環境の厳しさから限界を迎えていました。Aさんは、費用の安い民間の退職代行サービスを使って、そのまま出社をやめました。ところが、常駐先の入館証と、会社から貸与されたパソコンが手元に残ったままでした。
常駐先では対応に追われ、Aさんの所属する会社から、Aさんに対して損害賠償を求める話が出てきました。貸与物の返却の交渉は、法的な交渉にあたる場面があり、民間の業者は弁護士ではないため会社と法的な交渉をすることはできないとされています。そのため、代行業者が対応から手を引く形になりました。その後、Aさんは弁護士に依頼し直し、貸与物の返却や常駐先との関係を会社間の問題として切り分けて整理しました。結果として、Aさん本人への損害賠償の請求は止まったと聞いています。
この事例から読み取れるのは、「辞める」という意思の伝え方だけでなく、退職日までの間に何を返し、何を引き継ぐかを決めておくことの重みです。退職日を決める話し合いの中に、貸与物の返却日を最初から入れておけば、防げた問題でした。なお、結果は契約内容や証拠の状況で変わります。同じ流れをたどれば同じ結果になる、という話ではありません。
貸与物のリストは、手元で先に作っておくと役に立ちます。入館証、社員証、鍵、パソコン、スマートフォン、名刺、会社名義のクレジットカード、紙の資料。思いつくものを全部書き出して、返却方法(手渡し、郵送、第三者を通した返却)を決めます。郵送するなら、追跡番号の出る方法を選び、発送日と中身をメールで会社に知らせます。
3つの失敗に共通する、日付を決めるときの考え方
3つの失敗には共通点があります。どれも、「あとで考える」を重ねた結果として起きていることです。切り出す前に日付を決めておかない、伝えたあとに記録を残さない、限界になってから段取りを考える。順番を前倒しするだけで、防げる場面が多くなります。
日付の案は、2つ用意しておくと動きやすくなります。1つ目は、引き継ぎと有給を十分に取れる「希望の日」。2つ目は、会社が難色を示したときに出せる「ここまでなら譲れる日」です。たとえば、希望が11月30日なら、譲れる日を12月15日にしておく。会社から「年内は難しい」と言われたときに、その場で固まらずに返答できます。
逆に、譲れない線も先に決めておきます。体調の面で、これ以上は働けないという日があるなら、その日より後ろの案には乗らない。交渉の中で「もう少しだけ」と延ばされ続けるのを防ぐには、この線を自分の中に持っておくことが役立ちます。線を決めかねるときは、受診して医師の意見を聞くのも一つの方法です。
伝えるときの一言は、こうなります。「最終出社日は11月30日を希望しています。事情があって、12月以降の勤務は難しい状況です。」理由の細部は話さなくても、「難しい」と言い切れば十分に伝わります。
退職日が決まらないときに頼れる窓口
自分でやりとりを進めても、会社が退職日に応じない、話し合いに入ってくれない、という場面はあります。そのときは、一人で抱え込まず、相談先を使ってください。
厚生労働省の案内では、総合労働相談コーナーは、全国の労働局や労働基準監督署内に378か所あり、解雇、雇止め、配置転換、賃金引下げ、いじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントなど、労働問題全般の相談を受け付けています。相談は無料で、予約は不要、プライバシーに配慮して対応するとされています。受付は平日の日中が中心で、専門の相談員が常にいるとは限らないため、事前に電話で確認するよう案内されています。詳しくは、厚生労働省の総合労働相談コーナーのページで確認できます。
この窓口では、法令違反の疑いがある場合に、労働基準監督署などの機関につないでもらえることもあるとされています。ただし、会社との個別の交渉を代わりにやってくれる窓口ではありません。退職日や有給消化、貸与物の返却について会社と調整が必要で、自分では動けないときは、弁護士への無料相談も選択肢です。弁護士は、依頼を受ければ会社との交渉を代理で進められます。
やること:退職日を決める前のチェックリスト
今日から1週間で進める順に並べました。全部をその日にやる必要はありません。1つずつ、手が動く順でかまいません。
- 雇用契約書を見て、期間の定めがあるかないかを確認する
- 就業規則の「退職」の項目を探し、申し出の期限が書かれているかを見る
- 残っている有給休暇の日数を確認する(人事か給与明細で)
- 引き継ぎが必要な業務を書き出し、それぞれに必要な日数を見積もる
- 最終出社日と退職日の案を、具体的な日付で2案つくる
- 貸与物のリストを作り、返却方法を決める
- 口頭で伝えたら、その日のうちに確認メールを送る
- ハラスメントの記録は、退職連絡とは別の場所に保管しておく
- 話が進まないときの相談先(総合労働相談コーナー、弁護士)の連絡先を控えておく
まとめ:退職日は「預けず、残す」
退職日をめぐる失敗は、辞める意思が弱いから起きるのではありません。日付を会社に預けてしまうこと、やりとりを残さないこと、出社をやめたあとの段取りを決めていないこと。この3つの穴から入ってくることがほとんどです。
期間の定めのない雇用なら、民法627条1項により、申入れから2週間で雇用が終了するという下限のルールがあります。そのうえで、引き継ぎや有給の調整は、日付を自分で出して、メールで残しながら詰めていく。この順番を守るだけで、会社とのやりとりはだいぶ落ち着きます。
切り出し方で迷う、会社が日付に応じない、すでに体調が崩れていて自分では動けない。そんなときは、一人で抱えず、LINEで弁護士に退職の相談をする方法もあります。まずは今日、手元で「2案の退職日」と「貸与物のリスト」を作るところから始めてください。






