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退職日から数日たっても、最後の月の給料が口座に入っていない。給料日はまだ先だと言われたが、次の生活費や国民健康保険の支払いが迫っている。そういうときは、退職した本人が会社に請求すれば、会社は請求から7日以内に賃金を支払わなければならないという決まりが労働基準法にあります。給料日がまだ来ていなくても、この決まりは使えます。
ただし、この「7日以内」は、請求しなければ動き出さないルールです。しかも退職金は対象が違い、会社が「異議がある」と言っている部分の扱いも別です。ここでは、場面ごとに何が言えて、何を言えないのかを分けて整理します。
構成は、退職後によくある5つの場面ごとの質問と答えです。後半に、請求のメール文例と、それでも払われないときの相談先を置きました。
最初に押さえる決まり|通常の給料日と、退職後の「請求から7日以内」
賃金の支払いには、「通貨で、全額を、本人に直接、毎月1回以上、一定の期日を定めて払う」という原則があります。群馬労働局のページにもそのまま書かれている原則で、在職中も退職後も土台は同じです。会社は賃金規程や就業規則で「毎月25日払い」「末日締め翌月10日払い」のように期日を決めていて、退職月の分も、原則はその決まった給料日に払われます。
これとは別に、退職したときだけ働く規則があります。厚生労働省労働基準局の解説資料(労働法の基礎講座)では、使用者は労働者が退職した場合に、権利者(退職した本人)の請求があったときは、7日以内に賃金を支払い、労働者の権利に属する金品を返還しなければならないとされています。しかも、所定の支払期日が来る前であっても、請求があった日から7日以内に支払うとされています。
たとえば、11月15日に退職して給料日が「翌月10日」の会社でも、11月20日に請求すれば、11月27日までに払う義務が会社に生じる計算です。会社の給料日を待つ理由は、法律上はありません。
一方で、請求しないまま給料日を迎えれば、会社はその給料日に払えば足ります。「いつもの給料日まで待ってね」と言われたときに、待つのも請求するのも本人の選択、という位置づけです。
場面1|退職日の翌日になっても振り込まれない。もう払ってもらえる?
退職日の翌日に振り込まれていなくても、それだけでは異常ではありません。多くの会社は、最後の月の給与も通常の給料日に合わせて払います。月末締めの翌月25日払いなら、12月末退職でも振込は翌年1月25日です。まず確認するのは、自分の会社の賃金規程にある締め日と支払日です。在職中の給与明細に書かれていることもあります。
そのうえで、次の2つに分かれます。
- 通常の給料日までに生活が回る見込みがある。この場合は、会社の給料日に任せてかまいません
- 給料日が遠く、すぐ必要。この場合は、退職した本人として、書面かメールで「請求日」を残して払ってもらうよう求めます
請求は口頭でも成立しますが、「いつ請求したか」が分からなくなると、7日を数える起点がなくなります。電話で伝えた場合も、あとから「先日お電話した件について、改めてご連絡します」とメールを1通足しておくと、日付が残ります。
場面2|「給料日まで払えない」「経理が月末にまとめて処理する」と言われたら、待つしかない?
会社側の事情として、よく聞く返事があります。「給料の計算は月に1回しか回していない」「経理が月末にまとめて処理する」「システム上、締め日の前に出せない」。会社が実務上そうしていること自体は理解できますが、それが7日以内に払わなくてよい理由にはなりません。
前の節のとおり、所定の支払期日が来る前でも、請求から7日以内に払うのが決まりです。会社の事務の都合は、請求があれば例外になる理由として挙がっていません。
実際に交渉するときは、会社と争う言い方より、日付で話すほうが通りやすくなります。たとえば次のように、請求日と期限を一緒に伝えます。
- 「11月20日付で、最終月の賃金の支払いを請求します。労働基準法第23条に基づき、11月27日までのお支払いをお願いします」
- 「振込口座は在職中と同じ口座です。変更はありません」
この文面を送ったうえで、返事が「経理の都合」だった場合は、「請求日から7日以内という決まりがあると理解しています。いつまでに振り込めるか、日付で教えてください」と返します。日付を聞き出して記録するだけで、次の動き方が決まります。
場面3|退職金も、同じ7日以内で払ってもらえる?
ここは、同じ「請求から7日以内」でも扱いが違う部分です。厚生労働省の解説資料には、退職金は、就業規則などであらかじめ特定された支払期日までに支払えば足りると書かれています。
つまり、退職金規程に「退職から2か月以内に支払う」とあるなら、請求しても7日以内には払われず、その規定の期日までに払えば会社の義務は果たされることになります。給料と退職金を同じ感覚で請求すると、会社から「規程の期日が来るまで待ってください」と返され、そのとおりになります。
退職金そのものが出るのか、いくらなのかは別の問題で、退職金規程の読み方から確認する必要があります。辞める前にやる確認は退職金はもらえる?いくら?辞める前に就業規則で確認する5つの項目にまとめています。すでに辞めたあとでも、規程の確認の順番は同じです。
場面4|「備品を返すまで」「引き継ぎが終わるまで」払わないと言われたら、従うべき?
パソコンや社員証の返却、引き継ぎ資料の提出と、給料の支払いは、別の話です。会社が「返却が終わるまで払わない」と言ってくることがありますが、厚生労働省の資料では、賃金の支払いが、退職者の請求を受けて7日以内とされているだけで、返却物の有無は条件に書かれていません。
とはいえ、実際には揉めたくない人が多いはずです。現実的な動き方は、次のとおりです。
- 返す物は、日付を決めて郵送かレターパックで返す。送り状の控えは残す
- 返却と賃金は別であることを、メールに書く。「備品は11月22日に発送しました。賃金の支払いは別に請求していますので、11月27日までのお支払いをお願いします」
- 返却を理由に払わない、と返ってきたら、その文面を保存する
返却物の扱いや引き継ぎが終わらないまま辞める場面は、退職前の引き継ぎが終わらないときはでも書いています。
もう一つ、「迷惑をかけたから、その分を給料から引く」と言われる場面があります。群馬労働局のページでは、税金や社会保険料の本人負担分など法令で認められたもの以外を賃金から差し引くには、労使協定が必要とされています。会社が一方的に「損害の分を引く」と書いてきたときは、すぐに受け入れず、何を根拠に、いくらを引くのか、書面で説明を求めてください。損害賠償を言い出された場合の考え方は「辞めるなら損害賠償・違約金を払え」と言われたらにあります。
場面5|金額が合わず、会社が「異議がある」と言っているときはどうなる?
最終月の給料が、思っていた金額より少ない。残業代が入っていない、有給の買い取りを求めている、日割りの計算が違う。こういうとき、会社は「その分は払う義務があるか争う」という立場をとることがあります。
厚生労働省の解説資料は、賃金や金品の有無・種類・金額に労使間で争いがある場合について、次のように書いています。使用者は、異議のない部分だけを請求から7日以内に支払うか返還すれば、労働基準法上の義務を果たしたことになる。ただし、会社が「異議あり」としても、それが客観的に本来労働者に払われるべき賃金や金品であれば、請求から7日が過ぎたあとは、民事上の履行遅滞の責任を負う(労働者から損害賠償を請求できる)、とされています。
この二段階の意味は、次のとおりです。
- 争いのない部分は、7日以内に払われるのが基本です。ここが払われないなら、請求の記録を持って窓口へ相談できます
- 争いのある部分は、7日が過ぎても、すぐに法律違反とは限りません。ただし、本来払われるべきものなら、あとから会社の責任になる余地があります
退職後に未払いの残業代を請求したいなら、時効や集める資料の話が別に必要です。退職後でも未払い残業代は請求できる?で、時間の数え方と動き方を書いています。金額が合わないときは、まず給与明細の項目ごとに「どれが想定より少ないか」を書き出すと、争いの範囲を会社に示せます。
請求のメール文例|日付と金額をはっきり書く
請求は、短く、日付を入れて、感情を入れないのが基本です。送る先は、人事・総務か、給与の担当部署です。上司にだけ伝えて終わると、請求日が会社に届いた証拠にならないことがあります。
最初の請求(退職後、給料日が先のとき)
件名:最終月の賃金のお支払いについて(氏名)
お世話になっております。11月15日付で退職しました、(氏名・社員番号)です。
労働基準法第23条に基づき、最終月(11月分)の賃金の支払いを請求いたします。
請求日は本メールの送信日である11月20日です。請求から7日以内の11月27日までに、在職中と同じ口座へお振込みください。
給与明細の発行もあわせてお願いいたします。
ご不明な点があれば、このメールにご返信ください。
返事がないときの催促(請求から5日目ごろ)
件名:Re:最終月の賃金のお支払いについて(氏名)
11月20日にご連絡した、最終月の賃金の件です。11月27日が支払いの期限となるため、現在の進み具合と、お振込み予定日を日付でお知らせください。
本日11月25日から2日以内にお返事がない場合は、労働基準監督署の総合労働相談コーナーへ相談することも考えています。
催促のときに、強い言葉を使う必要はありません。「相談することも考えている」と書けば、会社には外部の窓口があることが伝わります。実際に動くかどうかは、そのあとで決められます。
注意点|請求で見落としやすいこと
1. 請求できるのは本人(または相続人)
厚生労働省の資料では、権利者は、退職の場合は労働者本人、死亡した場合は相続人で、一般債権者は含まれないとされています。家族や友人が代わりに請求しても、権利者の請求にあたるかどうかは別問題になります。本人名義のメールで請求するのが確実です。
2. 「賃金」の中身は広い
賃金には、給料や手当だけでなく、賞与その他名称にかかわらず、労働の対価として会社が払うものが含まれます。ただし前の節のとおり、退職金だけは規程の期日で足ります。賞与は、支給日に在籍している人だけが対象という規定の会社もあります。その確認はボーナス前に退職すると支給されない?のほうで扱っています。
3. 積立金や預けた物も請求の対象になる
同じ資料に、7日以内に返還する対象として、労働者の権利に属する金品(積立金、保証金、貯蓄金その他名称を問わない)が挙げられています。さらに、労働に関連して会社が保管している、労働者所有の物品も含まれます。社内預金、制服の保証金、預けた私物があるなら、同じメールの中で一緒に返還を求められます。
4. 最終月の控除額は、給与明細で必ず見る
最終月の明細には、社会保険料や住民税の控除が、普段と違う形で入ることがあります。退職月の社会保険料の考え方は月末退職と月末前の退職で社会保険料はどう変わる?に、住民税の一括徴収の扱いは退職後の住民税、払い忘れ・引かれ過ぎで慌てないためににあります。手取りが少ないと感じたら、まず控除の内訳を見て、会社が勝手に引いたものか、法令で必要なものかを分けます。
5. 請求の記録は、日付と文面を残す
メールの送信日、会社からの返信、電話をしたなら通話の日時と相手の名前をメモしておきます。あとから相談窓口へ行くとき、「いつ、何を、誰に請求したか」が分かるだけで、話が早く進みます。
6. 振込先の口座は、請求のメールにも書いておく
退職後に給与口座を解約したり、引っ越したりする人もいます。群馬労働局のページによると、口座振込は、本人の同意があり、本人名義の口座に、賃金の全額が所定の支払日に引き出せる形で振り込まれることが条件です。口座を変えるときは、請求のメールに「振込先は〇〇銀行の本人名義口座に変更します。口座情報は別途お送りします」と書き、口座番号は別のメールか書面で伝えます。書かずにいると、旧口座に振り込まれて、戻ってくるまで日数がかかることがあります。
それでも払われないときの相談先と、動く順番
請求から7日が過ぎても、争いのない部分が払われないときは、次の順に動けます。
- 催促のメールを1通送る。日付つきで、いつまでに払うかを聞く
- 返事がない、または理由が納得できないときは、労働局や労働基準監督署に併設されている「総合労働相談コーナー」に相談する(茨城労働局の案内ページにも、「解雇」「雇止め」「賃下げ」「いじめ」総合労働相談コーナー、個別労働紛争解決制度、労働関係相談先一覧が並んでいます。お住まいの都道府県の労働局のページから探せます)
- 相談時には、請求メールの控え、給与明細、雇用契約書か労働条件通知書、賃金規程があれば持っていく
窓口の電話番号や受付時間は、都道府県の労働局ごとに違います。最寄りの窓口は、厚生労働省か各都道府県労働局の公式ページで探してください。
一方で、会社が連絡に応じない、請求したら態度が変わったなど、一人で進めるのが難しいと感じたときは、弁護士への無料相談も選択肢です。相談する前に、ここまでの請求の記録を整理しておくと、状況の説明が短く済みます。退職の切り出し後に嫌がらせが起きた場面は退職を切り出したら態度が豹変したで書いています。
やることチェックリスト
- 賃金規程か給与明細で、自分の会社の締め日と支払日を確認する
- 最終月の給料が、通常の給料日までに間に合うか判断する
- 急ぐなら、請求日と期限(請求から7日以内)をメールに書いて、人事か給与担当に送る
- 積立金、保証金、預けた私物があれば、同じメールで返還を求める
- 返却する備品は、送り状の控えを残して郵送する
- 給与明細で、控除額の内訳と、残業代などの抜けを確認する
- 期限が過ぎたら、催促メールを送り、返事を日付つきで保存する
- それでも払われないときは、総合労働相談コーナーか弁護士の無料相談に、記録を持って相談する
まとめ
退職した本人が請求すれば、会社は、所定の給料日の前でも、請求から7日以内に賃金を払わなければなりません。例外は退職金で、就業規則などで決まった期日までに払えば足ります。金額に争いがある場合は、異議のない部分を7日以内に払えば、労働基準法上の義務は果たされます。
請求は、日付と期限を書いたメールで1通送るところから始まります。「備品を返すまで」「経理の都合で」と言われても、7日以内という決まりに、それらの条件は書かれていません。退職後の手続き全体の順番は退職するときにやること一覧で確認できます。最後の給料を受け取るところまでが、退職の手続きの一部です。






