退職前の有給消化を断られたときの対処法|「忙しいから無理」と言われたら

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれます。

※本記事の事例は、実際の相談事例を基に、個人や会社が特定されないよう一部を脚色・再構成したものです。

退職を決めたあと、「残っている有給休暇を使い切ってから辞めたい」と考える人は多いと思います。ところが、上司に伝えたとたん「今は忙しいから無理」「引き継ぎが終わるまで休めない」「うちは有給消化なんて前例がない」と言われ、言い返せずに黙ってしまうことがあります。

ハラスメントや無理な要求で心も体もすり減っている状態だと、なおさら「これ以上もめたくない」と引いてしまいがちです。この記事では、退職前の有給消化を断られたときに、どう考え、どう動けばよいかを順番に整理します。

※本記事の事例は、複数の相談事例を基に脚色・再構成したものです。

結論:退職日までの有給は、原則として使える可能性が高い

先に結論をお伝えします。厚生労働省の「確かめよう労働条件」のページには、退職日をもって年次有給休暇(以下、有給)の権利は消えるため、退職間近に残りの有給をすべて取りたいという申請があった場合、会社は時季変更権(後ほど説明します)を行使できず、取得を認めるほかない、という趣旨の説明があります。

沖縄労働局のQ&Aでも、残り30日の有給がある職員が退職願のあとにそのまま有給を取って退職したいと届け出た場合、会社は応じる必要がある(与えなければならない)と回答しています。理由として、在籍中であれば退職までに有給を取る権利があること、会社が時季を変えられるのは「事業の正常な運営を妨げる」場合に限られること、そして時季を変えるにしても退職日より後には変えられないことが挙げられています。

つまり、「忙しいから無理」という言葉だけで、有給消化をあきらめる必要はない可能性が高いということです。ただし、実際に動くときには、伝え方や順番で結果が変わります。この記事では、争わずに通すための具体的な手順と、通らなかったときの次の一手まで書いていきます。

  • 有給は「会社に許可をもらうもの」ではなく、原則として「労働者が時季を指定して取るもの」
  • 会社が拒めるのは、時季をずらすことだけで、退職日より後にはずらせない
  • 引き継ぎは大切だが、有給を取れるかどうかとは別の話として整理できる

有給の基本を、退職前に確認しておく

有給が発生する条件と日数

前述の厚生労働省のページによると、労働基準法39条は、雇い入れの日から6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に、10労働日の有給を与えることを会社に求めています。その後は継続勤務の年数に応じて日数が増え、上限は20日とされています。週の所定労働日数が少ない人には、日数が比例して決まる仕組みもあります。

まずは自分の残日数を確認しましょう。給与明細に載っていることもありますし、勤怠システムや人事・総務に聞けば分かります。聞くときは「退職を考えているので」とまで言う必要はありません。「有給の残日数を確認したいのですが」で十分です。

有給の時効は2年

厚生労働省「スタートアップ労働条件」のQ&Aでは、有給の請求権の消滅時効は2年とされています(労働基準法第115条)。付与された日から少なくとも2年間は請求できるということです。長年の繰り越しがある人は、古い分から消えていくことがあるため、残日数の内訳(いつ付与された分か)も確認しておくと安心です。

時季変更権とは

時季変更権とは、労働者が指定した日に休まれると「事業の正常な運営を妨げる」場合に限って、会社が休む日をずらすよう求められる権利です。「休むな」と言える権利ではなく、「別の日にしてほしい」と言える権利にとどまります。

厚生労働省のページでは、代わりの人を配置するなど勤務の調整が可能なのに、その配慮をしないまま時季変更権を使うことは許されない、という判例の考え方も紹介されています。単に「忙しい」「人が足りない」というだけで、すぐに認められるわけではない、ということです。

そして、退職の場合は「ずらす先」がありません。退職日より後に有給は使えないため、会社が日にちをずらす余地がなくなります。ここが、退職前の有給消化が通りやすいとされる理由です。

ありがちな断り文句と、考え方の整理

「忙しいから無理」と言われたら

忙しさは、時季変更権の根拠として使えるものとは限りません。そして、退職日までの有給については、ずらす先がないため、会社が拒みにくい構造になっています。ここで大切なのは、感情的に反論しないことです。「無理と言われても、権利のことなので確認させてください」くらいの温度で、淡々と進めましょう。

「引き継ぎが終わるまで休めない」と言われたら

引き継ぎは、円満に辞めるためにも大切です。ただ、厚生労働省のページには、引き継ぎのために退職日を遅らせてほしいと打診されることがあっても、それに応じるかどうかは労働者の判断に委ねられる、という趣旨の説明があります。

引き継ぎを理由に有給を認めない、あるいは退職日を延ばすよう求められても、受け入れる義務があると決まっているわけではありません。ただし、現実には、引き継ぎ資料を先に作って渡しておくほうが、話はずっとスムーズに進みます。後の手順で、引き継ぎと有給を両立させる進め方を紹介します。

「前例がない」「うちはそういう会社じゃない」と言われたら

社内の慣習や前例は、法律上の権利とは別の話です。「前例がない」という理由で、有給が消えるわけではありません。とはいえ、相手を論破する必要もありません。「慣習は理解していますが、制度として残っている日数なので、使わせていただきたいです」と、事実だけを伝えれば足ります。

「有給を買い取るから出勤してくれ」と言われたら

会社から買い取りを提案されることもあります。ただし、有給の買い取りについては、私が公的ページで確認できた範囲では、どう扱うかの根拠をここで断定することはできません。提案された場合は、その場で返事をせず、「持ち帰って検討します」とだけ伝え、条件は書面やメールで残してもらうようにしてください。迷ったときは、労働局や弁護士に確認するのが安全です。

有給消化を通すための具体的な手順

手順1:残日数と就業規則を確認する

最初にやることは、次の2つです。

  • 有給の残日数と、それがいつ付与された分かを確認する
  • 就業規則で、退職の申し出の方法や期限、有給の申請方法がどう決まっているかを確認する

就業規則は、会社の共有フォルダや社内サイトに置かれていることが多いです。見当たらなければ、人事・総務に「就業規則を確認したい」と伝えれば足ります。なお、退職の申し出の期限は、雇用形態(期間の定めがあるかどうか)や就業規則によって扱いが変わる場合があるので、自分のケースがどれに当たるかは、労働局や専門家に確認することをおすすめします。

手順2:退職日と最終出社日を分けて考える

有給消化を前提にするなら、「最終出社日」と「退職日」は別の日になります。たとえば、残りの有給が20日(出勤日ベース)あるなら、最終出社日から20日分の出勤日を休み、その最後の日の翌日以降を退職日にする、という考え方です。

日数の数え方は、会社の所定休日(土日など)を除いた「出勤日」で数えるのが基本です。カレンダーに書き出して、自分でも確認しておきましょう。

手順3:引き継ぎ計画を先に作る

有給消化の話を切り出す前に、引き継ぎ資料のたたき台を作っておくと、交渉はぐっと楽になります。内容は大がかりでなくて構いません。

  • 担当している業務の一覧(頻度、関係者、使うシステム)
  • 進行中の案件の状況と、次にやることの一覧
  • マニュアルや過去の資料が保管されている場所
  • 取引先や社内の主な連絡先

「この計画で、最終出社日までに引き継ぎを終えます」と示せば、会社は「業務が止まる」という不安を減らせます。結果的に、有給消化の話も通りやすくなります。

手順4:上司に伝える(言い方の例)

退職の意思と有給消化の希望は、できれば同じタイミングで、具体的な日付つきで伝えます。口頭で伝えたあと、必ずメールでも送り、記録を残してください。

口頭で伝えるときの例です。

「お時間をいただきありがとうございます。○月○日付で退職したいと考えています。残っている有給が○日ありますので、最終出社日を○月○日とし、退職日までを有給消化にあてたいです。引き継ぎは、最終出社日までに資料にまとめてお渡しします」

反論されたときの返し方の例です。

「忙しい時期なのは承知しています。そのため、引き継ぎ資料は先に準備しました。それでも、権利として残っている日数なので、このスケジュールでお願いしたいです」

メールで送る場合の例です。

件名:退職の申し出と有給休暇の取得について

○○部長

お疲れさまです。○○です。本日お話しした件について、あらためてご連絡します。

私は○月○日付で退職したいと考えております。つきましては、残っている有給休暇○日を、○月○日から○月○日まで取得したく、申請いたします。最終出社日は○月○日を予定しています。

引き継ぎは、最終出社日までに資料にまとめ、ご担当の方にお渡しします。ご不明な点があれば、ご相談ください。どうぞよろしくお願いいたします。

ポイントは、「お願い」ではなく「申請」の形にすること、そして日付をはっきり書くことです。

手順5:断られたら、理由を書面で残してもらう

それでも「認めない」と言われたら、その場で言い争わず、こう返します。

「承知しました。認められない理由を、メールで教えていただけますか。内容を確認したうえで、あらためて相談します」

会社が理由を文章にすると、後で労働局や弁護士に相談するときの大切な材料になります。もし口頭でしか答えてもらえないなら、そのやりとりを日付つきのメモに残しておきましょう。メモの取り方は、ハラスメントの時系列メモの書き方テンプレが参考になります。

事例:Aさんの場合

ここからは、イメージしやすいように、ある事例を紹介します(先ほどの注記のとおり、複数の相談を基に再構成したものです)。

30代のAさんは、上司から人前で厳しく叱責される日が続き、心身の調子を崩して退職を決めました。残りの有給は18日。上司に退職と有給消化を伝えると、「繁忙期だから有給は認められない。最後の月までは普通に出てもらう」と言われました。

Aさんは、その場で言い返せず、いったん席に戻りました。その日のうちに、口頭で言われた内容をメモにまとめ、翌日に引き継ぎ資料のたたき台を作りました。そのうえで、日付つきの有給申請をメールで送り、「認められない場合は、理由をメールでお知らせください」と添えました。

結果として、会社は引き継ぎ資料を確認したうえで、最終出社日の前倒しを受け入れました。もちろん、全員がこのように進むとは限りません。ただ、感情的にならず、日付と書面で整えたことが、話を前に進める助けになった事例です。

注意点:有給消化で気をつけたい3つのこと

注意点1:退職日ぎりぎりで申し出ると、引き継ぎが苦しくなる

退職日の直前に「明日から有給を全部使います」と伝えると、権利としては成り立つ可能性があっても、会社との関係が悪化し、その後の手続き(離職票、源泉徴収票などの書類の受け取り)に影響が出ることもあります。可能なら、少なくとも数週間の余裕を持って申し出て、引き継ぎの時間を確保するのがおすすめです。

注意点2:就業規則と実際の運用が違うことがある

就業規則に「退職の申し出は1か月前まで」と書かれていても、実際の運用や、法律上の扱いと食い違うことがあります。就業規則どおりに動くほうが無難な場面も多い一方、期限や手続きの扱いは雇用形態によって異なります。「就業規則にこう書いてあるから」と言われても、あわてて従う前に、労働局や専門家に確認してかまいません。

注意点3:「有給を取ったことへの不利益」には注意する

厚生労働省のページには、労働基準法の附則第136条で、有給を取った労働者に対する不利益な取り扱いを禁じる定めがある、という趣旨の記載があります。たとえば、有給を取ったことを理由に、評価を下げる、退職金や賞与で不当に差をつける、といったことが問題になる可能性があります。気になる扱いを受けたら、いつ、誰に、何を言われたかを記録しておいてください。

注意点4:うつ状態やハラスメントが続いているなら、無理に出社しない

引き継ぎのために出社を続けて、症状が悪化してしまっては本末転倒です。体調が限界なら、まず休むことを優先してかまいません。休むときの連絡の仕方は、ハラスメントによる体調不良で休む連絡テンプレが使えます。受診するか迷う場合は、ハラスメントで心療内科・精神科に行くか迷ったときの目安も参考にしてください。

それでも会社が認めないとき:次の一手

労働局などの公的な窓口に相談する

会社が有給の取得を頑として認めないときは、各地の労働局や労働基準監督署の窓口に相談する方法があります。相談するときは、次のものを手元に準備しておくと、話が早く進みます。

  • 有給の残日数が分かる資料(給与明細、勤怠画面のスクリーンショットなど)
  • 就業規則の該当部分(退職、有給に関する箇所)
  • 申請したときのメールと、会社の返答(断られた内容)
  • 時系列のメモ(いつ、誰に、何を言われたか)

資料のまとめ方は、ハラスメント相談用まとめシートの作り方が使えます。有給の問題とハラスメントが重なっているときも、同じ要領で整理できます。

弁護士への相談も選択肢に入れる

有給の話だけでなく、退職そのものを引き止められている、退職届を受け取ってもらえない、ハラスメントの責任についても整理したい、といった場合は、一人で交渉を続けるのが大きな負担になります。そのようなときは、弁護士への無料相談を使うのも一つの方法です。

弁護士なら、有給の扱い、退職日の決め方、会社とのやりとりの進め方までまとめて相談できます。一人で抱えきれないと感じたときに、使える選択肢があることを覚えておいてください。相談したからといって、必ず辞めなければならないわけでも、必ず特定の結果になるわけでもありません。話を聞いてもらい、自分の状況を整理するだけでも、気持ちは少し軽くなります。

やることチェックリスト

最後に、この記事の内容をチェックリストにまとめます。できるところから、一つずつ進めてください。

  • 有給の残日数と、それがいつ付与された分かを確認した
  • 就業規則の、退職の申し出と有給の申請に関する部分を確認した
  • 最終出社日と退職日を、カレンダーに書き出して決めた
  • 引き継ぎ資料のたたき台を作った
  • 上司に、日付つきで退職と有給消化の希望を伝えた
  • 口頭で伝えた内容を、メールでも送って記録を残した
  • 断られた場合は、理由をメールで教えてもらうよう依頼した
  • やりとりを、日付つきのメモに残した
  • 解決しない場合は、労働局や弁護士への相談を検討した

実際にあったケース:有給が40日残っていたのに、退職届を破られたケース

中小メーカーの工場長だった50代の方が退職届を出したところ、目の前で破り捨てられました。しかも10年間ほとんど有給を使えておらず、40日分が残っていました。

弁護士が介入し、退職届の受け取り拒否に法的な効力はないことを伝えたうえで、残っていた有給の消化を請求しました。結果として、有給を消化する期間の給与を受け取りながら退職できたそうです。

ここから学べること:有給が多く残っている場合は、「辞める日」より先に「有給をどう使うか」を整理しておくと損をしにくくなります。退職届は、コピーや写真を残すか、記録の残る方法で出しておくと安心です。

一人で抱えきれないときは、弁護士への無料相談も選択肢のひとつです。事例はあくまで一例で、結果は契約内容や証拠の状況によって変わります。同じ結果を保証するものではありません。

まとめ

退職前の有給消化は、「会社にお願いして許してもらうもの」と思い込みがちですが、厚生労働省や各地の労働局の説明では、退職日までの有給は、会社が時季を退職日より後にずらすことができないため、原則として認めるほかない、という考え方が示されています。

とはいえ、実際に通すためには、残日数の確認、最終出社日と退職日の整理、引き継ぎ計画、書面での申請という順番を踏むのが近道です。言い争う必要はありません。日付と書面で、淡々と進めましょう。

それでも話が進まないときや、ハラスメントと重なって心身が限界に近いときは、一人で抱え込まないでください。労働局などの公的な窓口や、弁護士への無料相談など、頼れる先はあります。退職の伝え方で迷ったら、ハラスメントで明日もう出社できないときの最短手順も、あわせて読んでみてください。

この記事で参照した公的な情報は、次のとおりです。最新の内容や、ご自身のケースへの当てはまりは、各窓口でご確認ください。