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結論から書きます。「話し合いの余地を残したい」なら退職願、「辞める意思はもう固まっている」なら退職届です。ただし、どちらを出すかより先に、出した日付と、相手が受け取った事実を自分の手元に残すことのほうが、あとで効いてきます。
月曜の朝、デスクの引き出しに書きかけの紙を入れたまま、上司の顔色をうかがって一日が終わる。そういう状態で「そもそも願と届のどちらを書けばいいのか」で止まってしまう人は少なくありません。名前が似ているので、間違えると取り返しがつかないのではと身構えるのも自然です。
実際には、書式の違いで退職できるかどうかが決まるわけではありません。違いが出るのは、会社と話し合う余地があるかと、出したあとに気持ちが変わったときに戻せるかの2点です。この記事では、その違いを整理し、書き方と渡し方の文例、やりがちなつまずきまでを順番に説明します。一人で抱えきれないときは、弁護士への無料相談も選択肢です。
退職願・退職届・辞表の違いを一度で整理する
呼び方は似ていますが、意味合いが違います。会社ごとに運用が異なるため、ここでは一般的な使われ方として説明します。
- 退職願:「辞めたいのですが、お願いできますか」という、退職を願い出る書類。会社が承諾して初めて話が進むという位置づけで使われることが多い
- 退職届:「この日をもって辞めます」という、退職の意思を一方的に届け出る書類。話し合いの段階を終えたあとに出すものとして使われることが多い
- 辞表:役員や公務員など、特定の立場の人が使う言葉。一般の会社員は使わない
つまり、順番としては「口頭で上司に伝える → 退職願(必要なら) → 退職届」という流れが一つの型です。ただし、この順番を守らないと退職できない、という決まりがあるわけではありません。
名前より「中身」と「日付」が大事
書類の題名が「退職願」でも「退職届」でも、文面に「退職日」と「辞める意思」がはっきり書かれていれば、会社はそれを退職の申し出として扱います。逆に、題名が退職届でも、退職日が空欄で意思があいまいな書き方だと、あとで「正式な申し出ではない」と言われる余地が出ます。題名で悩みすぎるより、中身を明確にするほうが確実です。
法律の面から見ると、何が基準になるのか
期間の定めのない雇用(いわゆる正社員など)については、民法627条1項に次の趣旨の定めがあります。e-Gov法令検索で条文を確認しました。
- 雇用の期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができる
- その場合、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する
条文は、法令データ提供システム(e-Gov法令検索)の「民法」で第627条を開くと読めます。ここで押さえたいのは、「申入れの日」がいつなのかが、期間の起点になるという点です。口頭で伝えた日なのか、書面を出した日なのかで、あとから食い違いが起きることがあります。だからこそ、日付を残しておく意味があります。
なお、有期契約(契約期間が決まっている働き方)や、就業規則に「1か月前までに申し出る」と書かれているケースでは、考え方が変わる場合があります。就業規則の日数との関係は、別の記事で詳しく扱っています。
関連記事:退職は何日前に伝えればいい?「2週間」と就業規則の「1か月前」がぶつかるときの考え方
退職願と退職届、どちらを出すか決める3つの目安
迷ったときは、次の3つで判断すると整理しやすくなります。
目安1:退職日をすでに会社と合意できているか
上司と話して「3月末で退職」と日付がそろっているなら、確認の意味で退職届を出して構いません。まだ日付がバラバラなら、退職願で「この日を希望します」と出して、話を進めるほうが自然です。
目安2:気持ちが変わる可能性が少しでもあるか
たとえば、異動や配置換えで状況が変わるなら残ってもいい、と思っている段階なら、退職願が向いています。退職届は意思の固まったものとして扱われやすいので、「もう少し様子を見たい」段階で出すのは避けたほうが安全です。
目安3:話し合いが成り立つ相手か
上司が怒鳴る、話を聞かない、「受け取らない」と言い張る。そういう相手には、口頭で伝えて終わらせるのではなく、書面で意思を示すことになります。この場合は、退職日を明記した退職届を、後述する方法で渡して記録を残す流れが現実的です。
ハラスメントが原因で辞める場合は、退職届に理由まで書く必要はありません。「一身上の都合により」で足りるのが通常です。理由の書き方が離職票や失業給付にどう影響するかは、次の記事にまとめています。
関連記事:ハラスメントで辞めたら会社都合になる?離職票の「自己都合」で失敗しない3つの注意点
出す前の手順:5ステップで進める
- 就業規則を確認する:退職の申し出は「いつまでに」「誰に」「どの形式で」と書かれていることが多い。人事部や総務の共有フォルダ、入社時にもらった冊子を探す
- 退職日の希望を決める:有給休暇の残りと、社会保険や賞与の時期も見ながら、「この日」と言える日付を一つ決める
- 直属の上司に口頭で伝える:いきなり書面を出すより、先に「ご相談があります」と時間をもらう。ただし、相手がハラスメントの加害者なら、人事など別の窓口に直接伝えてもよい
- 書面を用意する:会社の指定書式があればそれを使う。なければ白い便箋か無地のA4用紙に、手書きでもパソコンでもよい
- 渡した記録を残す:次の章で説明する方法で、日付と相手を記録する
退職日の決め方に迷うなら
退職日は、有給の消化と引き継ぎの日数から逆算すると決めやすくなります。つまずきやすい場面は別の記事に整理しました。
関連記事:退職日の決め方で失敗しない|やりがちな3つのつまずきと伝え方の文例
書き方の文例:退職願と退職届
文面は短く、事実だけを書きます。理由を長く書くほど、会社に反論や慰留の材料を渡すことになります。
退職願の文例
題名を「退職願」とし、本文は次のようにします。
- 私事で恐縮ですが、このたび一身上の都合により、2027年3月31日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。
- 日付(提出する日)、所属部署、氏名、宛名(代表取締役の氏名、または会社の指定する宛先)を添える
退職届の文例
題名を「退職届」とし、本文は次のようにします。
- 私事で恐縮ですが、このたび一身上の都合により、2027年3月31日をもって退職いたします。
- 日付(提出する日)、所属部署、氏名、宛名を同じように添える
違いは文末だけです。「いたしたく、お願い申し上げます」が願、「いたします」が届です。この一語で、会社に判断を求めるのか、意思を通知するのかが分かれます。
書くときの細かい点
- 退職日は具体的な年月日で書く。「3月末」「できるだけ早く」は避ける
- 理由は「一身上の都合」で足りる。ハラスメントなど会社に原因がある場合に、書面へ詳しく書く必要はない
- 自分の控え用に、書いた内容をコピーまたは写真で残す
- 押印の要否は会社の運用による。就業規則や過去の退職者の例を確認する
渡し方の文例:口頭・メール・書面
渡し方で、あとのトラブルが変わります。状況別に、使いやすい言い方を挙げます。
口頭で上司に切り出すとき
最初の一言は、理由の説明より事実を先に置きます。
- 「お時間をいただけますか。退職したいと考えており、3月31日付での退職をお願いしたいです。」
- 引き止められたら:「考えた末の決定ですので、退職日は変えられません。引き継ぎは来週から始めます。」
書面を受け取ってもらえないとき
「受け取れない」「預かっておく」と言われた場合は、その場で次のように言って、日付を残します。
- 「それでは、本日付で提出したことを、メールで確認させてください。」
そのあと、上司と人事の両方に、次のようなメールを送ります。
- 件名:退職届の提出について
- 本文:本日(○月○日)、○○部長に退職届を提出いたしました。退職日は2027年3月31日です。ご確認をお願いいたします。
メールに自分の私用アドレスを混ぜておくか、送信画面のスクリーンショットを撮っておくと、会社のメールが使えなくなった場合の備えになります。
書面が渡せない場合の方法
出社が難しいほど体調が悪い、上司と顔を合わせたくない、という場合は、郵送という方法もあります。郵便局の「配達証明」付きの郵便で送れば、いつ相手に届いたかの記録が残ります。内容を証明したいなら「内容証明」を組み合わせる方法もあります。どちらも日本郵便の有料のサービスです。料金や手続きは日本郵便の案内を確認してください。
やりがちな3つの注意点
注意点1:感情が高ぶっている日に、勢いで退職届を出さない
怒鳴られた日の夜に書いて、翌朝そのまま出してしまう人がいます。気持ちはわかりますが、退職届は意思の固まった書類として扱われやすく、出したあとに「やっぱり残りたい」と言っても、会社が応じる義務はありません。1晩置いて、読み直してから出すくらいの余裕を持ってください。
注意点2:会社の「預かり」で提出日が曖昧になる
「いったん預かる」「上に確認する」と言われたまま、数週間たっても返事がない。この間に、会社は「まだ正式には受け取っていない」と主張する余地が残ります。提出した日付と、誰に渡したかをメモか写真で残し、先ほどの確認メールを送っておくと、あとで説明しやすくなります。
注意点3:書面に不要な感情や批判を書かない
「上司のパワハラに耐えられないため」と書きたくなる気持ちはあります。ただ、退職届は会社に保管され、離職票の理由欄などとも結びつく書類です。事実を整理して相談したいなら、退職届とは別に、時系列のメモや相談用シートにまとめるのが向いています。
関連記事:ハラスメント相談用まとめシートの作り方|時系列のまとめ方と資料作成のコツ
提出してから退職日までの過ごし方
書面を出して終わりではなく、退職日までの数週間をどう過ごすかで、最後の印象も手続きの進み方も変わります。やることを三つに絞ると、次のとおりです。
引き継ぎは「書面」で残す
口頭で引き継ぐと、あとから「聞いていない」と言われたときに説明できません。担当している業務、取引先の連絡先、締め切りのある案件を、A4一枚の一覧にしてメールで共有しておきます。たとえば「提出日:10月21日、共有先:○○課長、△△さん」と、日付と宛先を件名か本文に入れておくと、渡した事実が残ります。
会社に返すものと、受け取るものを確認する
返すものは、社員証、健康保険証、制服、PCや鍵などです。受け取るものは、離職票、源泉徴収票、年金手帳や雇用保険の関係書類などで、会社によって渡し方や時期が違います。退職日の1週間前までに、人事へ「受け取る書類と時期の一覧をいただけますか」とメールで聞いておくと、直前にあわてずに済みます。
私物と個人データを整理する
会社のPCやクラウドに私的なデータを置いたままにしない一方で、会社の情報を勝手に持ち出すのも避けます。自分の勤務記録や給与明細など、自分に関わる書類の扱いで迷ったら、人事に「自分の分の控えをもらえますか」と聞いてから動いてください。
よくある疑問に短く答えます
手書きとパソコン、どちらで書くべきか
法律上、手書きでなければならないという決まりは確認できていません。会社の指定や慣習がある場合はそれに合わせ、指定がなければ、読みやすいほうで構いません。迷うときは、過去に退職した人がどちらで出したかを、同僚にさりげなく聞くのが早い方法です。
封筒に入れる必要はあるか
会社の運用による部分が大きいところです。上司に直接渡すなら、白い無地の封筒に入れ、表に「退職届」、裏に所属と氏名を書く形がよく使われます。郵送するなら、封筒は必須と考えて、中身がわかる形で送ってください。
退職日までに有給は使えるか
残りの日数があれば、退職日までに使う希望を伝えられます。ただし、引き継ぎの日程との兼ね合いで会社と調整になることもあります。「有給を○日分、退職日までに消化したい」と、希望の日数を数字で書いて出すと、話が進みやすくなります。
撤回できるか、について
「出したあとに考えが変わったら戻せるのか」は、よく聞かれる点です。一般には、退職願は会社が承諾するまでは取り下げの余地がある一方、退職届は撤回が難しいと言われることがあります。ただし、実際の扱いは、会社が受け取ったかどうか、承諾の意思表示があったか、といった事情で変わります。個別の状況の判断は、弁護士や労働局の窓口に確認してください。
ここで言えるのは、「撤回できるかどうか」が不確かな以上、迷いがあるうちは退職届より退職願を使う、あるいは、出す日を遅らせるという判断のほうが安全だということです。
会社が受け取らない・脅してくるときの動き方
「退職届は受理しない」「辞めるなら損害賠償だ」と言われるケースがあります。こうした場面で、一人で言い返す必要はありません。
- 言われた内容は、日付と一緒にメモに残す。録音が可能な環境なら、録音も有効な記録になる
- 人事や総務など、直属の上司以外の窓口に、書面とメールで退職の意思を伝える
- 都道府県労働局の総合労働相談コーナーなど、公的な窓口に状況を相談する
- 会社との交渉が必要になりそうなら、弁護士に相談する。弁護士以外の業者は、会社との金銭や法的な交渉ができないとされている
引き止めへの対応は、こちらの記事で場面別に整理しています。
関連記事:退職を引き止められたときの断り方|「後任が見つかるまで」と言われたら
提出前のチェックリスト
- 就業規則で、退職の申し出の期限・宛先・形式を確認した
- 退職日を、具体的な年月日で一つ決めた
- 有給休暇の残り日数と、使い切れるかを確認した
- 退職願にするか退職届にするか、上の3つの目安で決めた
- 書面の文末を、願(お願い申し上げます)か届(いたします)かで統一した
- 理由は「一身上の都合」にとどめ、批判や感情を書いていない
- 控え(コピーまたは写真)を取った
- 渡した日付・相手を、メモまたは確認メールで残した
- 書面を受け取ってもらえない場合の、郵送の準備をした
- 一人で抱えきれないときの相談先(労働局、弁護士)を決めた
まとめ
退職願は「お願い」、退職届は「通知」です。迷いがあれば願、意思が固まり、退職日も決まっているなら届を選びます。書式は会社の指定があればそれに従い、なければ短い文面で十分です。
書類の名前よりも、退職日を具体的に書くこと、理由を書き込みすぎないこと、提出した日付と相手の記録を残すことの3つが、あとの食い違いを防ぎます。民法627条1項が定める「申入れの日から2週間」という考え方でも、日付が基準になります。
上司が受け取らない、脅される、会社からの連絡が怖いといった状況なら、書面を出す前に誰かに話しておくと動きやすくなります。退職の相談は、弁護士への無料相談という形でもできます。まずは今日、就業規則の「退職」の項目を開いて、退職の申し出の期限と宛先だけを確認してみてください。






