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ハラスメントが原因で辞めた場合でも、離職票に「自己都合」と書かれたまま手続きが進むことがあります。一方で、ハローワークの基準には「上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者」が、特定受給資格者(会社都合に近い扱いの人)の範囲として挙げられています。つまり、辞める理由がハラスメントなら、自己都合として扱われるとは限りません。
ただし、基準に当てはまるかどうかを決めるのは、会社ではなくハローワークです。判断の材料になるのは、離職票の記載と、あなたが出す説明や資料です。ここで取りこぼすと、給付日数が短くなったり、受け取れるまでの期間が延びたりする可能性があります。この記事では、退職時にやりがちな失敗を3つ挙げ、それぞれの回避策と文例を示します。
先に前提を書いておきます。以下の内容は、厚生労働省のハローワークインターネットサービスで確認できた範囲です。個別の判定は、あなたの勤務状況や証拠によって変わります。最終的には、お住まいの地域を管轄するハローワークの窓口で確認してください。
まず押さえたい「会社都合」と「自己都合」の違い
失業保険(雇用保険の基本手当)では、離職の理由によって、もらえる日数や条件が変わります。ハローワークの案内によると、倒産や解雇などで、再就職の準備をする時間的な余裕がないまま離職した人は「特定受給資格者」と呼ばれます。一般に「会社都合」と言われるのは、このグループが中心です。
違いは主に3つあります。
- 受給に必要な被保険者期間:一般の離職者は、離職前2年間に通算12か月以上。特定受給資格者は、離職前1年間に通算6か月以上
- 所定給付日数:90日から360日の間で、離職日の年齢、被保険者期間、離職理由によって決まる
- 給付が始まるまでの期間:自己都合の場合、待機期間のあとに給付制限がかかることがある(期間は制度の改正で変わることがあるため、窓口で確認してください)
給付日数の差を、ハローワークの表から一例だけ挙げます。被保険者期間が1年以上5年未満の場合、一般の離職者は90日です。特定受給資格者で35歳以上45歳未満だと、同じ期間で240日と載っています。年齢や勤続年数によっては差がない区分もあるため、自分の区分は「基本手当の所定給付日数」のページで確認してください。
ハラスメントが「特定受給資格者」に当たるのはどんなとき
ハローワークの「特定受給資格者の範囲」には、ハラスメントに関係する項目が複数あります。確認できた内容は次のとおりです。
- 上司、同僚等からの故意の排斥、著しい冷遇、嫌がらせを受けて離職した場合
- 事業主がセクシュアルハラスメントの事実を把握しながら、雇用管理上必要な措置を講じなかったために離職した場合
- 妊娠、出産、育児休業、介護休業などに関する言動で就業環境が害されている事実を事業主が把握しながら、必要な措置を講じなかった場合
- 妊娠、出産、制度の利用を理由に不利益な取扱いをされた場合
セクハラやマタハラの項目には、「事業主が事実を把握していたのに措置を取らなかった」という条件が付いています。会社に相談した日、相談した相手、会社がどう対応したか(あるいは何もしなかったか)が、あとで意味を持つということです。
ハラスメント以外でも、離職前6か月間の時間外労働が、連続する3か月で45時間、いずれか1か月で100時間、連続する2か月以上の平均で月80時間を超えた場合などが範囲に含まれます。賃金についても、支払期日までに賃金の3分の1を超える額が支払われなかった場合や、賃金が以前の85%未満に下がった場合(予見できなかったときに限る)が載っています。無理な長時間労働と、嫌がらせが重なっている人は、両方の項目を窓口で伝えると整理しやすくなります。
なお、どの項目に当たるかは、事業主がハローワークに出す離職証明書の記載と添付書類をもとに判断され、最終的には受給資格を決める際に、本人への確認と調査を経て決まると案内されています。会社の書き方だけで確定するわけではない、という点は覚えておいてください。
失敗例1:離職票の「自己都合」をそのまま受け入れる
何が起きるか
退職して2週間ほど経つと、会社から離職票が届きます。封筒を開けると、離職理由の欄に「労働者の個人的な事情による離職(一身上の都合)」といった記載がある。疲れ切っているときに、「もう関わりたくない」と思って、そのまま持っていってしまう人は少なくありません。
離職票の様式には、会社が書いた離職理由に対して、本人が自分の考えを示す欄があるとされています(様式や欄の名称は、ハローワークで確認してください)。ここを確認せずに会社の記載へ同意する形にしてしまうと、あとから違う理由を説明するときに、手間が増えることがあります。
特に、署名や印を求められる書類は、中身を読んでから出します。「みんなこうしています」「形式的なものなので」と急かされても、その場で出す必要はありません。「内容を確認してから提出します」と伝えて、持ち帰ってかまいません。
回避策
- 離職票が届いたら、離職理由の欄を最初に読む。ハラスメントについて何も書かれていない、または事実と違う内容になっていないかを見る
- 納得できない場合は、同意する形の署名や記入をせず、ハローワークの窓口で事情を説明する
- 窓口に行く前に、いつ、誰から、何を言われたかを時系列で書き出しておく
窓口での最初の一言は、次のくらいで十分です。
「離職票には自己都合と書かれていますが、直属の上司から継続して嫌がらせを受けたことが退職の理由です。経緯をまとめたメモと、やり取りの記録を持ってきました。確認していただけますか」
感情をぶつける必要はありません。事実を日付つきで順に話すほうが、窓口の担当者にも伝わります。
失敗例2:証拠も経緯も持たずに窓口へ行く
何が起きるか
「ハラスメントで辞めました」と話しても、それを裏づけるものがなければ、担当者は事実関係を確認する手段が限られます。会社側が「そのような事実はない」と説明した場合、双方の話が食い違ったまま、判断が長引くこともあります。
退職後は、社内のメールやチャットを見られなくなることがあります。在職中に残しておけばよかった、という後悔は、ここで出ます。
回避策
退職日までに残せるものを、優先順位をつけて集めます。
- 時系列のメモ(日付、場所、相手、言われた内容、その場にいた人)
- メールやLINE、チャットの画面保存(個人の端末に保存できる範囲で。社外秘の資料の持ち出しには注意)
- 会社や人事に相談した日と、その返答の記録
- 診断書や通院の記録(体調に影響が出ている場合)
- 勤怠記録や給与明細(長時間労働や賃金の問題が重なる場合)
メモの書き方は、ハラスメントの時系列メモの書き方テンプレにまとめています。LINEやDMの残し方は、LINE・DMをハラスメントの証拠として残すコツで確認できます。
すでに退職して、証拠がほとんど手元にない場合も、あきらめる必要はありません。記憶が新しいうちに、思い出せる範囲で時系列を書き出してください。そこに「同じ場面にいた同僚の名前」を添えておくと、窓口で事情を説明するときの手がかりになります。結果は、状況や資料によって変わります。
失敗例3:退職届の書き方や会社とのやり取りで、理由があいまいになる
何が起きるか
退職届に「一身上の都合により」と書くのは、一般的な書き方です。ただ、この定型の言葉を書いたことで、離職の理由が自己都合として固まると思い込んでしまう人がいます。逆に、会社と面談した際に「家庭の事情もあって」「次の仕事も考えていて」などと話したことが、あとで離職理由の裏づけとして使われる場合もあります。
ハラスメントを受けていたのに、人事とのやり取りの記録が一切なく、退職の経緯がどこにも残っていない状態だと、事情を説明する材料が薄くなります。
回避策
- 退職届の文言は定型でもよいが、退職の理由がハラスメントであることは、別の形(メール、面談後の確認メール、メモ)で残す
- 面談で話した内容は、その日のうちにメールで確認しておく
- 退職届の書き方が離職の扱いにどう影響するか迷うときは、提出前にハローワークで聞く
面談後の確認メールは、次のような文面で送れます。
「本日はお時間をいただきありがとうございました。面談でお伝えした内容を確認させてください。私が退職を考えている理由は、○○部長から継続して受けている叱責と、人格を否定する発言です。これについて、○月○日に人事部へ相談しましたが、現時点で具体的な対応はいただいておりません。誤りがあれば、ご指摘ください」
文面の型は、ハラスメント面談後の確認メールテンプレも参考になります。
退職前後にやることの順番
実際の動きを、時系列で並べておきます。
- 退職を決めた時点:時系列メモを整理し、残せる証拠を保存する
- 退職を伝える前:必要なら会社や人事に相談した記録を残す
- 退職届の提出:定型の文言で出しつつ、理由は別途メールなどで残す
- 退職日:貸与物の返却、離職票の発行依頼(いつ頃届くかも確認する)
- 離職票が届いたら:離職理由の欄を読み、納得できなければ同意する形の記入をせず、窓口で相談する
- ハローワークへ:離職票、本人確認書類、メモや証拠を持って、窓口で事情を説明する
離職票の発行が遅れているときは、会社の人事や総務に、メールで日付を添えて確認しておくと、あとでやり取りを辿れます。
窓口で聞かれそうなことと、答えの準備
ハローワークでは、離職の事情を本人に確認する場面があると案内されています。何を聞かれるかは個別に違いますが、次のような質問に答えられるようにしておくと、話が早く進みます。
- いつごろから、誰に、どんなことをされたのか
- 会社や上司、人事に相談したか。相談したなら、いつ、どう対応されたか
- その状況を裏づける資料はあるか
- 退職を決めるまでに、配置転換や休職など、ほかの選択肢を考えたか
答えは、メモを見ながらでかまいません。たとえば、次のように話せます。
「昨年の4月ごろから、毎週の会議で、私だけ名指しで『使えない』と言われるようになりました。6月に人事へ相談しましたが、『様子を見ましょう』と言われたまま、変化はありませんでした。9月に体調を崩して通院を始め、退職を決めました。会議のメモと、人事に送ったメールがあります」
日付がはっきりしない部分は、「○月ごろ」で構いません。わからないことを推測で埋めるより、「正確な日付は記録を確認します」と言うほうが、あとで食い違いません。
相談の経緯をうまく整理できないときは、ハラスメント相談用まとめシートの作り方の形に沿って、1枚にまとめておくと使えます。
窓口に行った日の動き方
ハローワークは、平日の日中に開いています。仕事を辞めた直後でも、気持ちが追いつかず、足が向かない人は多いです。行く日を決めるときは、午前中の早い時間を選び、持ち物を前の晩にクリアファイルへ入れておくと、当日に迷いません。
- 離職票(届いていれば。届いていない場合は、その旨と会社に確認した日を伝える)
- マイナンバーが確認できるものと、本人確認書類
- 時系列メモと、保存したメールやLINEの画面(印刷でも、端末の画面でもよい)
- 人事や上司に相談した日付と返答を書いたメモ
受付で「離職理由について相談したい」と先に伝えておくと、案内がスムーズになることがあります。順番を待つあいだに、メモの最初の3行だけ読み返しておくと、話し始めで詰まりません。たとえば、「いつから」「誰から」「何があって退職を決めたか」の3点です。
その場で結論が出ないこともあります。担当者から追加の資料や事実確認を求められたら、「確認して、次回までに用意します」と答えれば足ります。会社に連絡が行く場合もあるため、会社とのやり取りがすでにこじれているときは、その事情も最初に伝えておきます。
会社との交渉が必要になりそうなとき
離職理由をめぐって、会社が事実と異なる説明を続けている場合や、退職そのものを引き延ばされている場合は、ハローワークの窓口だけでは進めにくいことがあります。退職の手続き、未払いの賃金や残業代、損害賠償といった会社との交渉が絡むときは、弁護士に相談する選択肢があります。弁護士以外の業者は、会社との金銭や法的な交渉ができないとされています。
退職日が決まっていて、有給休暇の消化が絡む場合は、退職前の有給消化を断られたときの対処法も確認してください。
一人で抱えきれないときは、弁護士への無料相談も選択肢です。離職票の記載や、退職の進め方に不安があれば、状況を整理するだけでも相談できます。結果は、契約内容や証拠の状況によって変わります。
注意点
- ハラスメントが原因の離職でも、特定受給資格者に認められるかどうかは、ハローワークが事実関係を確認して決める。「必ず会社都合になる」とは言えない
- セクハラやマタハラの項目では、事業主が事実を把握していたのに措置を取らなかったことが条件になる。会社への相談の記録は、残しておく
- 給付制限の期間や細かい手続きは、改正されることがある。申請の前に、窓口で現在の取扱いを聞く
- 離職票は、退職後に届くため、離職理由を確認するのは退職してからになる。在職中に証拠を集めておく
- インターネット上の体験談は、個別の事情に基づく話。自分の場合に同じ結果になるとは限らない
やることチェックリスト
- ハラスメントの時系列メモを、日付つきで書き出した
- メールやLINEなど、残せる証拠を個人の端末やノートに保存した
- 会社や人事に相談した日と、返答の内容を記録した
- 退職届の提出前に、離職の扱いについて聞きたいことをまとめた
- 離職票の発行時期を、会社に確認した
- 離職票が届いたら、離職理由の欄を最初に読むと決めた
- 納得できない記載があれば、同意する形の記入をせず、ハローワークで事情を話すと決めた
- ハローワークには、離職票、本人確認書類、メモ、証拠を持っていく
確認に使える公的ページ
制度の内容は、次のページで確認できます。申請の直前に、最新の内容を見てください。
まとめ
ハラスメントが原因の退職は、ハローワークの基準で特定受給資格者の範囲に含まれる場合があります。ただし、自動的に会社都合になるわけではなく、離職票の記載、あなたの説明、残した資料をもとに確認されます。
失敗しやすいのは、離職票の「自己都合」をそのまま受け入れること、証拠と経緯を持たずに窓口へ行くこと、退職の理由が書面のどこにも残らないことの3つです。今日できることは、時系列メモを1行でも書き始めることと、離職票が届いたら離職理由の欄から読むと決めておくことです。会社との交渉が必要になりそうなときは、弁護士への無料相談も使えます。






